入試問題と著作権

eラーニングと著作権
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入試問題としての著作物利用の留意点

試験問題の種類

第三者の著作物を入学試験問題で利用する際には、法第三十六条(試験問題としての複製等)によって権利制限が謳われています。入学試験や入社試験、人の将来を左右する可能性のある試験、資格や検定などは、秘匿性が高いとして事前に著作権者の承諾を得ずに利用出来るとされています。いわゆるペーパーテストに限らず、インターネットを使っての試験に於いても平成十五年の法改正によって適用されるようになりました。学校内で行われる定期テストについては、授業の一環として本条文以外にも法第三十五条(学校その他の教育機関における複製等)の適用も考えられますので問題ないでしょう。

本条文の第2項に含まれる試験として業者テストや営利を目的とする模擬試験等があげられます。第2項では、秘匿性から第1項と同様に事前連絡無しでの利用は認めながらも事後に著作権者に対し補償金の支払を規定しています。

近年、プレテストと称する「学校が行う模擬入学試験」が増えていますが、こうした模擬試験も第2項含まれるものと考えられます。理由としては、「受験者に対し実施学校の合否を決める試験ではないこと」「教育を行った学校あるいは教諭等が、その生徒の教育到達状況を計る試験ではないこと」等が挙げられます。

試験問題と著作権 法第三十六条

法第三十六条では、著作権の制限の条件として、『公表された著作物』であることと『目的上必要と認められる限度において』、『著作権者の権利を不当に害する場合は、この限りではない』ということが謳われています。また法第四十八条(出所の明示)では、『その出所を明示する慣行のあるとき』と定められています。本法律は、権利制限ですのでそれなりの厳格な運用が求められます。


『公表された著作物』の例

出版物や刊行物、あるいはインターネットで閲覧出来るものについては、広く一般に公表されている著作物ですので利用しても問題ありません。講演や演説など多人数の前で公表(口述)されたものも公表された著作物ですので利用できます。海外の著作著作物についても扱いは同様です。

では公表されていない著作物とはどんなものでしょうか。公表されていない日記や手紙等、研究途中、あるいは公開されていないレポートや論文等がその例となります。日記代わりにブログを書いている人もおられますが、ブログ自体、インターネットによる公開が前提となりますので私的な日記であっても公開された著作物になります。


『目的上必要と認められる限度において』とは

問題を解くために必要最小限の情報量となります。この際に著作物の一部を切り取ることになり法第二十条(同一性保持権)への抵触が考えられますが、この場合、同条文の2項四号の『著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変』該当するものと考えられます。ただし、文章の中略は、文意が変わる恐れがあるため注意が必要です。詳しくは、次の【改変(同一性保持権)】で解説いたします。

図表や写真の場合は、どうでしょうか。図表の場合、一部分の切り取りということは、趣旨を変えることになり改変になります。また、写真の場合、トリミングは作家の創作活動においてアングルや露出・シャッター速度等同様に著作上の重要な要素であり、その作品をトリミングすることは、作品の改変にあたるとして写真作家協会は注意を呼びかけています。同様に図表で一部分を切り取ると本来著作者が表現しようとし意図と変わる可能性があります。こうしたことから図表や写真の場合は、そのまま全部を使うことが好ましいといえます。日記代わりにブログを書いている人もおられますが、ブログ自体、インターネットによる公開が前提となりますので私的な日記であっても公開された著作物になります。


『著作権者の権利を不当に害する場合』とは

著作権法では、『著作権者の権利を不当に害する場合』という言葉がよく使われています。不当に害するとは『本来販売を目的として著作されているものを権利制限により無償で配布することにより、販売という目的を達成出来ない状況する可能性があること』と解釈出来ます。試験用の教材を試験に使う場合や市販のリスニング教材を使ってリスニングテストを行う場合等は、そうした教材の著作権者は、全員の購入を期待し販売を行っているもので、『著作権者の権利を不当に害する場合』に該当すると思われます。また、推理小説等の結末がわかる部分だけを使用することもいわゆるネタばらしであり販売の妨げになると考えられますので『著作権者の権利を不当に害する場合』に抵触する可能性があります。

出題のための改変 法第二十条

入試問題として文学作品や論文その他著作物を利用する場合、所謂、「虫食い」や「並べ替え」「仮名置き換え」が行われますが、こうした設問のための改変についてのクレームはほとんどありません。

著作者からクレームとなるのは、主に文章の書き替えです。

限られたページ数へ収めるために文の一部を抜き去り、その前後をつなぐために文章の書き替えを行う。結果的に作者の論旨を変えてしまう。あるいは、著作者の意図する表現等、作者の作風が無視された為にクレームとなるケースがあります。熟慮のうえやむを得ず省略する場合は、<中略>あるいは、<○行略>といったかたちで、文章に手を加えないのが原則です。

英語の場合、文章中に難しい単語(高校過程までで学習しない単語等)があり平易な単語へ置き換えを行うケースがありますが、これは問題文下の注釈等で対応すべきで書き換えるべきではありません。また、問題文として取り上げた文章の表現が受験生には難しすぎるために一部を書き換えるといったケースも見られます。英語の著作物で最も多い権利者からのクレームがこのケースです。いっそアイディアを咀嚼し、全て自分の表現に変えオリジナルな文章として作文してしまえば問題はありません。受験生のレベルに合う文章を探す作業も大変な作業ですが、改変をしなくて良いように慎重な文章の選択をお願いします。

出所の明示 法第四十八条

出所の明示について、法第三十六条では『その出所を明示する慣行のあるとき』と規定されています。では、試験問題に出所の明示(出典表記)は、慣行されているのでしょうか。統計を出した訳ではありませんが、入試問題の国語についてはほとんどの問題に出典が書かれています。同じく英語については、出典表記されているものは半分程度です。入学試験全体としてみれば、慣行されているといえますが、教科別にみれば国語は慣習があるが、英語には慣習が無いとなります。一方著作権者側である日本文藝家協会や大学英語教科書協会は、出所の明示を求める要望書を学校関係に配布しています。

例えば、過去問題集を作成する、あるいはインターネットで過去問を公開するといった二次的な利用では、権利制限である法第三十六条は適用されません。一般の著作物の利用として出所の明示が必要になります。無用なトラブルを避けるためにも問題作成時に入れておいた方が良いように思われます。この点につきましては、次の二次利用で詳しく説明いたします。

使用報告とは

最後に『使用報告』に代表される慣習の問題について触れさせて頂きます。

著作権法上は、使用報告についての規定はありません。現在では、試験終了後、著作物の権利者に利用した旨の報告(使用報告)をすることが、慣例化しています。この使用報告については、社団法人日本文藝家協会や大学英語教科書協会が使用報告の依頼文を各学校教育機関へ送付していますが、これはあくまで法的な拘束ではなく「お願い」です。しかし、ここまで慣例化すると使用報告は社会の中で慣習として根付いてしまっていますので、報告しない大学は非常識な大学と見られてしまいます。また、困ったことに使用報告と一緒に学校のノベルティーグッズや特産品を贈る学校があります。そうした行為が新たな慣習を生む恐れがありますので注意が必要です。ちなみに海外では、英国、米国共に法律上また慣習としても使用報告は求めていません。使用報告は日本だけの慣習です。

関連する著作権法

第三十六条(試験問題としての複製等) 詳細
第四十八条三(出所の明示) 詳細
第二十条(同一性保持権) 詳細

参考文献

■著作権法逐条講義 加戸守行著 社団法人著作権情報センター刊
■著作権法詳説 三山裕三著 雄松堂出版刊
■詳解著作権法 作花文雄著 ぎょうせい刊
■アメリカ著作権法の基礎知識 山本隆司著 大田出版刊
■文化庁ホームページ
■社団法人著作権情報センターホームページ
■内閣官房知的財産戦略推進事務局ホームページ


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