入試問題と著作権

eラーニングと著作権
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海外文献の利用

海外著作物の利用許諾申請

海外文献の利用

海外著作物については、ベルヌ条約(WIPO=世界知的所有権機関)および万国著作権条約により国内の著作物と同様の権利保護がなされています。『内国民待遇』と言いますが、国内の文献同様の権利保護をしなければなりません。海外への申請には、国内申請に比べ原著作物の細かい情報が必要となります。時間的には、相手があることで一概に言えませんが、総じて国内の1.5倍程度かかっています。また、利用料を支払う際には、外為法の問題も絡んできますので余裕をもった取り組みが必要です。二次利用の許諾については国内の著作物に比べ細かな情報を求められることも多く(詳細は本ホームページ内の『海外著作物について』を参照)事前の準備が必要です。

過去問題集の申請では、以下のような問題点がありますので、海外への申請の際には、ご留意ください。

問題点

1.国内に既に持ち込まれた著作物でエージェントや出版社を通さねばならず時間も費用も掛かり過ぎるケースがある

2.改変部分が多く申請が出来ないケースがある

3.出典情報が不足しており申請が出来ないケースがある

4.著作者=著作権者のケースは少なく、契約先(出版社、エージェント、弁護士)への申請となることが多い


付記:ホームページ等公衆通信手段におけるプロテクトについて(平成19年2月10日)

近年、インターネットでの過去問の公開を計画されているところが増えている。実際に申請を行ってみると許諾条件にプロテクト機能を求められるケースが多い。プロテクトにもレベルがあり、ID、パスワードによる高度なものからプリントアウトができない、あるいはダウンロードができないといった簡易なものまでありその方法は様々である。確かに過去問は受験希望者、あるいは受験生を教授する先生方が主であり一般の人たちには関心のないことかもしれない。しかし、何の保護もなく著作物がネット上に置かれることに疑問を持つことは自然であるとも感じる。小会では、数社のシステム会社とプロテクト対策について研究中である。技術的には、ダウンロードした本人だけが利用できる仕組みやダウンロード後、一定時間で利用できなくなる仕組みなど様々な技術が存在するようであるが、いずれも費用が掛かるためもっと安価もしくは、共同で利用できるシステムを研究していただいている。

小会の海外著作権処理に対する取組みについて

小会では、平成19年度入試分から英米を中心に英語圏への著作権処理業務を開始し、平成23年度からは、中国への著作権処理業務を開始しました。当初、エージェントとの連携による許諾を試みましたが、コストと時間の問題から自分たちの手で行うことにしました。現状では、OUP(Oxford University Press)との業務提携や積極的な海外出版社との直接取引により、許諾状況は国内申請と変わらないクオリティーまであげることができました。

海外の著作権者へ申請した場合、国内の著作権者に比べ細かい情報〔利用ページのコピーとページ数・ISDN・目次・原著作の権利情報(Copyright=コピーライト)や原著への転載された著作物情報(acknowledgement=アクノーレジメント:謝辞)あるいは(Credit=クレジット:出典表記) 等々〕が必要となります。実際に申請に必要な情報が収集できずに申請を取り止めたケースがあります。こうした情報の収集には作問時からのこまめな情報の保存が必要となりますので、作問者の協力が必要不可欠です。

基本的に作問者からの情報を元に申請を行いますが、海外の場合、国内と違い出版契約により出版社が著作権を有するケースが多く見られます。個人に申請する国内と違い出版社への申請になりますので権利者への連絡は楽に見えますが、通常4・5年契約が普通ですので権利が移転していることが多く引用元の出版社から申請先が変更になることが多いようです。移転が判明するのは申請後となるため、移転していれば再度申請のやり直しとなります。申請後すぐに権利が無いことが判明すれば良いのですが、返事が無く数回督促をかけて始めて権利が無いことが判明することも多くあります。こうしたことも海外申請の時間ロスの原因のひとつです。

海外申請のほとんどが英語の入試問題ですが、国語に比べ改変による申請不能や、非許諾が多いのも特徴です。同一性保持権の説明でも記しましたが、改変の基本は、「抜き取り」「虫食い」「設問での並べ替え」「中略」であり「文章の書き換え」は、第三十六条の権利制限を超えるものです。英語も国語も同じことです。

海外申請では許諾条件としてCopyrightの表記やインターネットの場合のパスワード等のプロテクト設定が必ず求められます。特にインターネットでのパスワードによるプロテクトは、事前にサーバ管理部署等と運営方法等を決めておく必要があります。許諾は得られたが、サーバがプロテクトを掛けられる構成になっていないがために利用できないという事態にならないよう注意が必要です。

一部で言われているように「海外は怖い」ということはありません。ビジネスライクな対応であるので、高いと感じたら交渉することができます。高額な利用料を受け入れれば、前例となり定着してしまう恐れもあるので注意が必要です。いくら以上なら使わないという判断も必要です。もし利用しなければ費用を請求されることはありません。注意が必要なのは、入試利用に対して支払いを求められたときの対応です。使用報告でも記しましたが、一度支払いを受け入れたら前例となります。この場合、我が国の著作権法で支払い義務の無いことを説明し、二次利用分のみ支払う用意があることを伝えること。海外出版社の担当者も自国の著作権法すら詳しく理解していないケースもあります。

米国の場合、出版社によって違いますが、文章量が少ない場合、フェアユースとして無償で利用させてくれるケースもあります。しかしわが国の著作権法には、権利制限はありますが、フェア・ユースはありません。海外の著作物に対しては、内国民待遇ですから引用を除いて全て申請する必要があります。通常許諾が取れるとインボイスと一緒に利用著作物に表示するCopyrightが届くので、国語同様に文章の末尾に掲載します。海外のCopyrightの表示は、我が国の出典表記の「どの本から転載しました」というより、「この著作物の権利者は誰か」という意味合いが強いようです。国により商慣習、法律を含めた考え方に違いがあるため一概に言えませんが、海外の方が権利意識が高いように感じます。また、ここ数年、利用料は上昇傾向にあります。

海外の著作権法での教育利用の特例

わが国の著作権法では、入学試験は非営利な行為として法第三十六条で権利制限による利用が認められています。海外の著作権者が、私たちの利用申請を判断する上でその基準となるのが、自国の著作権法です。では、海外の著作権法では入学試験や教育利用はどのように定められているかを例示いたします。前記しましたが、日本国内での著作物の利用には、あくまでもわが国の著作権法が適用され、海外の著作権者には内国民待遇が適用されます。

二次的な利用である問題集の作成は、どの国の法律を見ても通常の著作物の利用として権利処理(著作権者からの利用許諾)が必要となります。

【英国著作権法】から抜粋

英国著作権法第32条(授業又は試験を目的として行われること)第3項で

『著作権は、問題を出し、問題を志願者に伝え、又は問題に答えるという方法により試験を目的として行われるいずれのことによっても侵害されない。』
とされています。また、第5項では、

『この条の規定によらなければ侵害複製物となる複製物がこの条の規定に従って作成されるが、その後に利用される場合には、その複製物は、その利用の目的上、及びその利用が著作権を侵害するときはその後のすべての目的上、侵害複製物として取り扱われる。この目的上、「利用される」とは、販売され、若しくは賃貸され、又は販売若しくは賃貸のために提供され、若しくは陳列されることをいう。』
とされています。

【米国著作権法】から抜粋

米国著作権法では、具体的に教育利用について定める条項はなく、第107条(排他的権利の制限:フェア・ユース)に含まれます。
『第107条 排他的権利の制限:フェア・ユース
 第106条および第106A条の規定にかかわらず、批評、解説、ニュース報道、教授(教室における使用のために複数のコピーを作成する行為を含む)、研究または調査等を目的とする著作権のある著作物のフェア・ユース(コピーまたはレコードへの複製その他第106条に定める手段による使用を含む)は、著作権の侵害とならない。著作物の使用がフェア・ユースとなるか否かを判断する場合に考慮すべき要素は、以下のものを含む。


(1) 使用の目的および性質(使用が商業性を有するかまたは非営利的教育目的かを含む)。

(2) 著作権のある著作物の性質。

(3) 著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量および実質性。

(4) 著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響。


上記の全ての要素を考慮してフェア・ユースが認定された場合、著作物が未発行であるという事実自体は、かかる認定を妨げない。』

フェアユースは、上記4項の要件により判断されるものとされています。入学試験や教育利用は、わが国の著作権法の第三十五条、第三十六条の要件を満たした利用であれば、問題はなさそうですが、『(4) 著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響。』については、わが国の著作権法には無い考え方ですので見解の相違が生まれそうです。

参考

ベルヌ条約

1886年(明治19年)にヨーロッパ諸国を中心に創設され、著作権の発生に何ら手続きを要しない無方式主義を条約上の原則としている。数次の改正を経て、現在パリ改正条約が最新のものである。ベルヌ条約に関する事務は、全世界の知的所有権保護の促進・改善を目的とする世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization、略称WIPO)が行っている。


ベルヌ条約の主な原則は、次のとおり


◆内国民待遇
同盟国が外国人の著作物を保護する場合に、自国民に与えている保護と同等以上の保護及び条約で定めている保護を与えねばならない。


◆法廷地法原則
著作権の保護範囲及び救済方法については、条約の規定によるほか、保護が要求される国の法令による。


◆無方式主義
著作権の享有には登録、作品の納入、著作権の表示などのいかなる方式も必要としない。


◆遡及効
条約は、その発行前に創作された著作物であっても、発行時にその本国又は保護義務を負う国において保護期間の満了により公有となったものを除き、すべての著作物に適用される

WIPO(世界知的所有権機関)

世界的な知的所有権の保護を促進することを目的として、1970年に発足した国際機関。1974年には国連の専門機関となっている。現在世界で179ヶ国が加盟。日本は1975年に加盟している。1967年にスウェーデンのストックホルムで署名された「世界知的所有権機関を設立する条約」に基づいて創設された。これは、工業所有権の保護に関するパリ条約と、文学美術作品の保護に関するベルヌ条約の為に設立されたBIRPIの後継機関である。1996年にインターネット上の著作権保護を定めた「ジュネーブ条約」を採択、2000年には、特許出願の手続きを世界レベルで標準化するための特許法条約(PLT)を採択、特許出願の記載事項や手続きの標準化を明記した。本部はスイスのジュネーブに置かれている。

万国著作権条約

著作権の保護を受けるための条件として、登録、作品の納入、著作権の表示などの方式を要求する国と無方式主義のベルヌ条約同盟国とを結ぶ架け橋の条約として1952年(昭和27年)に成立した。架け橋という訳は、この万国著作権条約によって、方式主義を採る締約国でも、著作物に表示(C表示)を付していれば、無方式主義を採る締約国の国民の著作物を保護することになったからである。万国著作権条約に関する事務は、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)が行っている。


万国著作権条約の主な原則は、次のとおり


◆内国民待遇
締約国が外国人の著作物を保護する場合、自国民に与えている保護と同等以上の保護を与えねばならない。


◆不遡及
条約は、その発効時に保護義務を負う国において保護期間の満了により公有となった著作物又は保護を受けたことのない著作物には適用されない。


◆表示(C表示)
著作物の複製物にC記号と著作権者の氏名及び最初の発行の年を表示しておけば、登録、作品の納入、著作権の表示などの方式主義国でも自動的に著作権の保護を受ける。

参考文献

■著作権法逐条講義 加戸守行著 社団法人著作権情報センター刊
■著作権法詳説 三山裕三著 雄松堂出版刊
■詳解著作権法 作花文雄著 ぎょうせい刊
■アメリカ著作権法の基礎知識 山本隆司著大田出版刊
■文化庁ホームページ
■社団法人著作権情報センターホームページ
■内閣官房知的財産戦略推進事務局ホームページ




海外著作物の利用許諾申請

英語等の試験問題では、必ずといってよいほど海外の著作物が利用されています。問題集作成やホームページでの公開などのために二次利用の許諾を取るには、国内の著作物に比べ、時間も手間も多くかかります。さらに、使い方(コピーライトの記載や改ざん)に対してもきっちりと行なわないと厳しく言及されることがあります。申請の際に困らないように問題作成の時点から前もってきちんとした準備を行なってください。

問題作成時の留意点

利用する文献が決まったら

著作権法第三十六条では、入学試験の秘匿性という観点から著作権法の例外として事前の許諾なく利用出来るとなっています。その際、第三十六条を成立させるためには次のことを守らなければなりません。


1.目的上必要と認められる限度において利用すること。「著作権財産権」

入学試験での利用の際は、ページ数の都合もありこの点についての問題はあまり見受けませんが、設問と関係の無い文章は、できるだけ割愛すべきでしょう。


2. 著作物の公表された際の名称、公表された場所、著作者名を表示すること。「出所の明示」

英語の入試問題の多くが、意図的では?と思われるほど「出所の明示」を怠っています。使用報告や二次利用の申請の際に最も多くトラブルとなるのがこの「出所の明示(出典の明記)」です。海外出版物には、必ずコピーライトの記述があります。入学試験問題にも必ず書籍名、著作者名、出版社名等「出所の明示(コピーライト表示=クレジット)」を掲載しなければなりません。「出所の明示(出典の明記)」の無いものは、二次利用できないと考えてください。

また、海外著作物に限らずですが、「献本」を求められるケースがあります。二次利用の際には、必ずコピーライト表示=クレジット表示を行なってください。新たな問題を引き起こします。


3.必要以上の改ざんをしないこと。「同一性保持権」

受験生の学力に合わせて改ざんされたり紙面の都合で要約 されることが多いようですが、文意が変わるほどの改ざんは、違法行為であることを理解しておいてください。二次利用を申し込んだ際にトラブルの原因にもなるので細心の注意を払ってください。

二次利用のための情報の収集・保存

入学試験問題を使って受験生向けの問題集の作成やインターネットでの公開を予定しているのであれば、問題作成時に二次利用許諾申請のための情報収集と保存をしておくとよいでしょう。

小会では、申請代行の際、必要なものとして、次にあげる資料のご準備をお願いしております。出典のメディアにより必要な資料が異なります。メディア別にあげておきますので参考にしてください。

書籍 ※は翻訳本のみ必要 新聞・雑誌 インターネット
使用箇所 〇(使用箇所・ページ番号の特定) 〇(使用箇所の特定、権利者情報) 〇(使用箇所・URLの特定、権利者情報)
コピーライト 〇(権利者情報)
第三者の著作物情報が記載されているページ
Text Credits / Acknowledgements
〇(権利者情報)
おもて表紙・裏表紙 〇(ISBNの特定) 〇(掲載誌/紙、掲載日の特定、権利者情報)
目次 〇(使用箇所の特定)※
原著著作権表示
(巻頭/巻末にある原著の著作権に関するページ)
〇(権利者の特定)※

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